ランパントリウム

植物とおどろう

イチョウのうろ

 街路樹の周りではいろいろな生き物が暮らしている。虫や鳥はもちろん他の植物が住み着いていることもある。

 このイチョウのうろ(樹洞)にはシダが生えている。

 種類はイヌワラビとイノモトソウの仲間のようだ。うろに土が溜まるなどして天然の植木鉢になっている。イチョウが強剪定されているために日当たりがよくなっているのは、ちょっと皮肉な話に思える。

 しかしイチョウもいつまでも軒先を貸しているばかりではない。うろは折れた枝が腐って空洞化したものなので、木はうろを塞ごうとする。これは同じイチョウの去年の冬の写真。

 うろのフチが厚く盛り上がっている。樹皮が成長し、左右から巻き込むように塞ぎ始めているためだ。このままだとうろは閉ざされ、したたかなシダの命運は尽きる。とは言え完全に閉じるにはまだ何年もかかるだろう。

 三年後くらいにまた続報をお伝えしたい。

すみれの閉鎖花

 すみれに閉鎖花ができてタネが実った。

 閉鎖花は自分の花粉で受粉する特殊な花で、名前の通り花としては開かない。開くのはタネを弾けさせる時だけだ。すみれが閉鎖花をつけるのは本で知っていたが、育つのを見るのは今回が初めてだった。

 五月の中頃、閉鎖花が生えてきたのに気づいた。通常の花はすでに咲き終わった後だったし、花弁らしきものがないから閉鎖花だろうと思った。通常の花は実を結ばなかった。すみれにはよくあることらしい。

 膨らむ閉鎖花。花の段階を飛ばし、ツボミから直接果実へ変わっていくように見える。

 成長中の閉鎖花は下を向いている。いつ開くのかと思っていたら、一晩のうちに向きが変わって三つに開いていた。植物が劇的に姿を変えるのはなぜか夜明け前が多く、不思議に思う。

 放っておくとタネが弾けてしまうので摘み取った。九月ごろに播くのがいいようなのでそれまで保管することにした。

ノキシノブが生えた

 先週末は台風で雨風が強かったが、アルドラの植物には被害がなかった。むしろ台風のあとの方が青々としているように見える。

 アカマツの鉢にノキシノブが生えていることに気づいた。

 ノキシノブは着生型のシダ植物。かつては茅葺き屋根によく生えたことから軒忍の名前がついたらしい。

 胞子を播いてもないのにここへ来てくれたのは喜ばしい。こういう大地の精霊みたいな植物は変にチヤホヤした手入れをすると逆に枯れたりする。存在に気づいてないフリをして、これまで通りの手入れを続けることにしよう。

シンジュ

 最近名前を覚えた木、シンジュ。ゾロっと長い葉を振り乱したスタイルがトレードマーク。

 この株は街路樹のように道路脇に生えているが、偶然この場所で種から生えたものではないかと思う。街路樹としては植え方が変だし、シンジュの種は風に乗って飛ぶ形をしているからだ。

 ヌルデやハゼノキなど似た木が多く、影が薄い。しかしよく探してみると街の至るところに生えていることに気づかされる。雑木界のモブキャラと呼ぶことにしよう。

 道路脇で刈られては生えを繰り返している。再生力は強いようだ。

 これは冬の落葉した形態。

 大きな白い葉痕が冬のトレードマーク。枝をナイフでそぎ落としたような独特な形をしており、この姿の方が一目でシンジュだと識別しやすい。葉がある時期よりも落葉した時期の方が個性的に見える、珍しい木だ。

キキョウソウ

 最近名前を覚えた植物、キキョウソウ

 花をアップで見たところ。

 中央の花と左右の花を比べると花柱の形が違うのがわかる。中央のは綿棒型だが左右のは三角形になっている。図鑑によると、咲いて時間が経つと綿棒型から三角に裂けるのだという。いつか裂ける瞬間を見てみたい。

 キキョウソウのミニチュア版みたいな花を見つけたので調べたら、ヒナキキョウソウという別の植物だった。大雨でヨレヨレになっているが紫の花が見える。

 キキョウソウと違い茎のてっぺんに花がつくのが特徴。乾燥への強さはキキョウソウより高いようで舗装脇の僅かな土に根を下ろしているのを見かける。

 どちらも閉鎖花で殖える仕組みがあり、街で生きるためのしたたかさを備えている。

無限再生能力

 形を失いつつあるマテバシイの切り株を見つけた。幹は朽ち、平らな部分がない。公園内の木で、切られてから何年も経つのだと思う。

 外輪山のように残った根もと部分は生きており、ひこばえが生えていた。

 力強く天を目指している。

 ひこばえを生やすかどうかは木の種類である程度決まっている。マテバシイはどんどん生やす種類だが一方でほぼ生やさない木もいる。ひこばえを無限に生やせた方が何度でも再生できて安心のように思える。しかし生やさない木が実際にいる以上、生き延びるのには再生能力が全てではないのかもしれない。例えばひこばえを予備の幹と考えた場合、作り過ぎるのはエネルギーの無駄とも言える。

 ひこばえから木がどうリスクに備えているのか、どんな生存戦略を採っているのか想像すると、散歩道の街路樹もいつもと少し違って見えてくる。

前葉体平原

 イヌワラビの前葉体が果てしなく続いている。

 胞子体が発生した。ほぼ平面の世界で彼らだけが立ち上がっている。

 前回のエントリーのときと比べて全体的に色が薄くなっている。

https://rampantrium.hatenablog.com/entry/2023/03/06/232319

 胞子体を出していない前葉体は黄色くなってきた。寿命なのかもしれない。全ての前葉体が胞子体を出したわけではないけれど、これだけ生えてくれば苗の本数としては充分と言える。